最初に見た情報が判断の基準になる
人は何かを判断するとき、完全に客観的に考えているように思える。しかし実際には、最初に見た情報がその後の判断に大きな影響を与えることがある。
例えば商品を見たとき、最初に「高い価格」を見せられると、その後に提示された価格が安く感じられることがある。逆に最初に安い価格を見ると、同じ商品でも高く感じることがある。
このように最初に与えられた情報が判断の基準になる現象は、「アンカリング効果」と呼ばれている。
ではなぜ、人は最初の情報にこれほど強く影響されてしまうのだろうか。
人は基準がない状態で判断するのが苦手
何かの価値や大きさを判断するとき、人の脳は比較できる基準を必要とする。もし基準が何もなければ、それが高いのか安いのか、良いのか悪いのかを判断するのは難しい。
そのため人は、最初に提示された情報を自然に基準として使うことがある。
例えば次のような状況である。
- 最初に提示された価格
- 最初に聞いた意見
- 最初に見た数字
これらは無意識のうちに「判断の出発点」になり、その後の評価に影響を与える。
人の判断は「比較」で作られる
人間の判断は、絶対的な数値よりも比較によって作られることが多い。あるものが高いか安いかは、それ単体ではなく「何と比べるか」で決まる。
アンカリング効果では、最初の情報がその比較の基準になる。
例えば次のような判断である。
- 10000円の商品を見た後の5000円は安く感じる
- 50点を見た後の70点は高く感じる
- 100人の中の10人は少なく感じる
こうした判断は、最初に見た数字によって大きく変わることがある。
最初の情報は強く記憶に残る
もう一つの理由は、最初に受け取った情報が記憶の中で強い印象を持ちやすいことである。最初の情報は、その後の情報を理解するための枠組みとして働くことがある。
そのため新しい情報を見ても、人は完全にゼロから判断するわけではない。すでに作られている基準を少し調整しながら判断していく。
しかしこの調整は、意外と小さいことが多い。その結果、最初の基準の影響が長く残るのである。
アンカリングは日常の多くの場面で使われている
アンカリング効果は、日常のさまざまな場面で見られる。特に次のような状況では強く働くことがある。
- 商品の価格表示
- 交渉や取引の最初の提示
- 評価や点数の基準
例えばセールで「通常価格」が大きく表示されている場合、それは判断の基準を作る役割を持っていることがある。
人の判断は完全に独立していない
私たちは自分の判断を、自分の考えだけで行っているように感じる。しかし実際には、その判断は周囲の情報や最初に与えられた基準に影響されていることが多い。
最初に見た数字、最初に聞いた意見、最初に与えられた印象。それらは無意識のうちに思考の土台になる。
人が最初の情報に強く影響される瞬間。それは単に先入観にとらわれているわけではない。
それは人間の脳が判断の出発点を必要とするために生まれた仕組み――アンカリング効果という心理のコードが働いているからなのである。